【借金返済】免責不許可の理由とは?

以上
観点
本件

主文

原決定を取り消す。
本件免責の申立を許可する。

理由

抗告人は「原判決を取り消し、さらに相当の裁判を求める」旨申立て、その理由として別紙抗告理由書記載のとおり主張した。
免責の制度は、破産者に対する各種の差別待遇(選挙権、被選挙権についての制限等)を漸次撤廃する傾向に即応して破産者個人の更生を容易にするため設けられたものであり、裁判により不誠実でない破産者に対し破産手続による配当で弁済されなかつた残余の債務についてその責任を原則として全面的に免除する特典を与うるものである。
破産法の定めるところによれば、破産者は破産手続の解止に至るまでの間何時でも破産裁判所に免責の申立をなすことができ(法第三六六条ノ二)裁判所は同法第三六六条ノ九各号に該当する場合に限り免責不許可の決定をすることができるものとされている。
右法律の文言ならびに前示立法の目的に照らすと形式上上記法第三六六条の九所定の各号に該当する事由がある場合であつてもその事実が軽微である等特段の事由があるときは裁判所はその裁量により免責を許可することを妨げないものと解するを相当とする。
本件記録及び取寄せにかゝる東京地方裁判所昭和三五年(フ)第一二九号破産事件記録によると、抗告人は昭和三五年五月六日支払を停止して支払不能の財産状態となり、債権者東京製鋼株式会社の申立により昭和三六年二月六日午前一〇時東京地方裁判所において破産宣告決定を受け、右決定は確定したものであるところ、抗告人は(一)昭和三五年四月二一日その所有の砧局(○×△)○×△□番電話加入権(価格約三一万円)につき長男Aに無償で譲渡した旨加入名義を変更し、(二)昭和三四年一二月一〇日Bに対し同人からの借入金債務二〇〇万円の担保として少くとも右債務額の二倍以上の価格を有する抗告人所有の東京都世田谷区a町b番c宅地一一一坪三合二勺外二筆の宅地につき右債務を期限に履行しなかつたときはその所有権を移転する旨の停止条件附代物弁済契約を締結し、昭和三五年四月二二日右契約を原因とする所有権移転の仮登記手続をした、ことが認められ、右(一)及び(二)の行為は外形的にみれば破産法第三七四条一号の罪の構成要件に該当し、同法第三六六条ノ九の一号に定める免責不許可の事由に該るものというべきかも知れない。
しかし、本件記録編綴の昭和四〇年六月五日附C作成の上申書と題する書面(記録第五二丁)、東京地方裁判所昭和三六年、(ワ)第五五五九号、第五五六〇号否認権行使請求事件判決正本写(同第八七丁)東京高等裁判所昭和四〇年(ネ)第二四〇五号、第二四一三号事件の第一〇回口頭弁論調書(和解)写(同第一一八丁)取寄記録中の債務者Cの審問調書、及び管財人D作成昭和四三年二月一日附報告書並びに原審における抗告人等の結果を綜合すると、
(一)抗告人は、泰和物産株式会社(以下泰和物産という)の代表取締役をしていたもので、同会社は破産申立債権者である東京製鋼株式会社からロープを購入しており、抗告人の右債権者に対する債務は、泰和物産のロープ買入代金につき保証の趣旨で同会社と共同で振出した手形債務であること。
(二)泰和物産はいすゞ自動車の子会社八洲産業株式会社に対し多額の融通手形を振り出していたところ、同会社が右手形の決済資金を支払らことができなくなり、それが直接の原因となつて泰和物産及び抗告人は支払を停止せざるを得なくなつたものであること。
(三)泰和物産は抗告人が上海から引揚後在支当時軍票工作に従事した一部社員を収容するため設立したもので、抗告人はその代表取締役に就任したが、業務には殆んど関与せず、小松製陶所専務、石川県資源開発専務、日本硬質陶器常務等を歴任又は兼務して生活をしており、泰和物産の業績も順調で、前記八洲産業に対する融通手形についても万一の場合にはその親会社であるいすゞ自動車株式会社の社長が援助するものと考えておりこれが為に泰和産業ないし抗告人が支払不能に陥るごときことは思つてもいなかつたこと。
(四)前掲(一)の電話加入権の譲渡については、抗告人は当時その所有家屋を鹿児島銀行の重役であるEに貸与しており右電話はその家屋に架設されていたものでかねてEから譲渡方を懇請されていたので、これを知人であるF弁護士に依頼したところ、同弁護士において前記のとおり処置したものであり、当時における右電話加入権の価格は金十二、三万円に過ぎないものであつたばかりでなく、破産宣告後管財人からAを被告として右譲渡行為につき否認権行使の訴が提起され第一審においてAが敗訴したところ控訴審において、「Aは昭和四二年一二月二五日までに上記電話加入権を破産管財人に譲渡し、これが加入名義の変更手続をすること。
もし不履行のときはAは管財人に対し金五万二〇〇〇円を支払うこと」なる約定の和解が成立し、その後右後段の約定に従いAから管財人に金五万二〇〇〇円が支払われ右は破産財団に組入れられたこと、又前掲(二)の宅地に対する所有権移転の仮登記等も同弁護士が処置したものであり、右行為についても前同様破産管財人からBを被告として否認権行使の訴が提起された結果控訴審において「Bは前掲宅地に有する昭和三四年一〇月一〇日付停止条件附代物弁済契約による所有権移転仮登記(昭和三五年四月二二日東京法務局調布出張所受付第八〇一四号)の抹消登記手続をすること」なる約定の和解が成立したこと。
(五)抗告人は破産宣告の申立を受け破産宣告の決定がなされるまでに申立人である債権者東京製鋼株式会社その他の債権者に対して誠意を以て弁済方努力したけれども何分債務額が予想以上の多額に上つていたので容易に弁済できず、遂に破産の宣告を受けるに至つたもので宣告後数年を経て昭和四三年七月二七日既に破産の終結決定がなされており、相当額に上る未払の債務が残存しているけれどもその間特に破産手続に不協力であつた点も認められず、それがため免責の申立を許可してはならないと判断すべき特段の事情は他に存在しないこと。
等の諸事実が認められる。
右認定の抗告人が破産宣告を受けるに至つた事情、その後の情況、問題となる本件各行為時における抗告人の主観的事情対象物件の価格及び右各行為について和解が成立し、破産財団につき実害を生じなかつたこと等諸般の事情を考量すると、前掲(一)、(二)の行為が抗告人の不誠実性を表徴するものとみることは抗告人に対し酷に失し相当でないといわなければならない。
他に抗告人の不誠実性を推認し得べき事実の認められず、前認定のような事情にある本件では抗告人に対しその更生を容易にする為免責するのを相当と考える。
よつて、抗告人の申立を許可しなかつた原決定は相当でないから原審に差戻すまでもなくこれを取消し、右申立を許可することとして主文のとおり決定する。

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